一般教養

社会|最低賃金は静岡県から始まった

日本の最低賃金の歴史と静岡県

それよりも安い賃金で労働者を働かせてはならない最低賃金が地域ごとに定められていることはみなさんもご存知かと思いますが、その歴史についてはあまり詳しく知らない方も多いのではないでしょうか?その歴史を紐解いてみると、実は静岡県が深く関わっています。
日本は、世界に比べ比較的に最低賃金の歴史が浅く、日本国憲法が施行された1947年に制定した労働基準法には、不当に賃金が低い労働者を保護するため、最低賃金に関する規定として「必要と認める場合には、一定の事業または職業の労働者について最低賃金を決めることが出来る」ことが盛り込まれていました。
しかし、戦後のインフレによる社会の混乱などを理由に具体的な措置は取られなかったため、労働基準法の一部として法律だけが先に制定された形となっていたのです。そうした中、1950年には、労働基準法に基づいて中央賃金審議会が設置され、最低賃金の具体的法施行について審議が行われました。翌1951年の答申は、「一般産業の労働者を対象とするもの」と「これを適用することが困難な低賃金業種の労働者を対象とするもの」との二本立て制を原則とすることを決定しました。
その後1954年の審議会は「最低賃金制に関する答申」を決定し、労働大臣の諮問機関として1955年に設置された労働問題懇談会がまず最低賃金を取り上げ、1957年に「賃金に関する意見書」を取りまとめました。
この意見書は、静岡県清水市の缶詰業者が自主的に行った「静岡缶詰協会員初給賃金協定」を参考に、業者間協定による最低賃金決定方式の導入・実施を提言し、1958年には業者間協定を中心とする最初の最低賃金が成立したのです。
労働省がこれを尊重し、啓蒙・指導を各都道府県労働局長に指示したため、1959年3月には113件もの業者間協定が締結された。これをふまえ、同年4月15日に最低賃金法が公布されスタートすることとなりました。
このように業者間協定としてスタートした最低賃金は業種別の不均衡を是正することができないとして改正がなされていきますが、静岡県が最低賃金の歴史における重要な舞台のひとつだったことがわかります。

静岡県の缶詰製造業

1950年に中央賃金審議会が参照した「静岡缶詰協会員初給賃金協定」についてふれる前に、日本の缶詰の歴史を簡単に整理しておきしょう。
日本の缶詰の歴史は、1810年にフランス人であるニコラ・アペールが缶詰製造方法を公表してから67年が経った1877年に北海道開拓使石狩工場が日本で初めてサケ缶詰を製造したことから始まります。
それとほぼ同時期に静岡県伊豆半島の下田市にある拡産社が静岡県で初めてアワビなどを缶詰にする製造を開始しました。その後、1904年には日露戦争が勃発し、軍納缶詰として缶詰が一気に注目を浴びることになります。同時に県下では缶詰工場の数も増えていきました。
1928年に入り、フランスから日本に缶詰製造が伝わってから50年程度製法が確立していなかった「マグロの油缶詰」を静岡県水産試験所の村上芳雄技師が焼津水産学校で試作に成功します。そのことがきっかけとなり更に製造工場が増え続け、1932年には清水食品(株)・後藤缶詰所(現はごろもフーズ(株))・清水水産(株)の三大缶詰会社が勢ぞろいすることになります。

缶詰製造業の労働環境と最低賃金

当時の缶詰製造業はその販路を海外市場に依存していたため、大きな港がある清水市が缶詰製造の中心を担っていました。かつお・まぐろ・みかんの缶詰を製造する業者は68社にものぼっていたといいます。1948年には、静岡県缶壜詰協会(1951年に社団法人静岡缶詰協会に改組)が設立されました。
缶詰企業の多くの労働者は、全国の地方から出稼ぎとして職を求め集まった女性と地域の女性が大半であり、低廉な賃金で日雇い労働をせざるを得ない状況となっていました。
その状況で製造した缶詰は、海外市場での競争力はあったものの、「低賃金の輸出産業は国辱である」と企業は新聞上で激しく批判を浴びることとなりました。この批判を受けたことも原因となり、缶詰協会は早急に労務協議会を設置することになり、翌1949年には、初給賃金などを記載した「静岡缶詰協会員初給賃金協定」が58事業所で確認されました。当時7356人の労働者のうち約3000人の労働者に適用されることとなりました。これが全国に先駆ける業者間協定の始まりでもあったのです。
この業者間協定方式による法定最低賃金の第1号を記念して「働く女子労働者の面影」のレリーフが1960年に作成され、当時の労働大臣(石田博英氏)の名と共に記念碑に刻まれています。現在、この記念碑は、静岡県清水区にあるフェルケール美術館で管理をされ、静岡県における缶詰産業と最低賃金の軌跡を現代に伝えています。


拡大する所得格差の中であらためて最低賃金について考える

所得格差が拡大を続けている今日、最低賃金引上げによる格差是正は、党派を超えた重要な政策課題となるでしょう。静岡県で労働組合の活動にかかわる方々は、県内の最低賃金の歴史をこうして振り返ることで、誰もが安心して働ける未来の社会づくりを共に進めていきましょう。

 

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